投稿者:タケシ猫
都内で探偵業を営むY氏から聞いた話です。探偵と言ってもドラマのように華やかなものではなく、浮気の調査や失踪人探しが多いそうです。これはそんな失踪人にまつわる怪談で、Y氏の調査を元に再構成した話です。
K県に住むNさんのスマホに着信が入ったのは随分遅い時間でした。着信の相手は都内の保育園に勤める親友のTさんからでした。Nさんが電話に出ると、Tさんは「つかれた」と言ってきました。Tさんの声の向こうでは子供達が走り回る音や、はしゃいでいる声が聞こえてきます。Nさんはお泊まり保育の真っ最中なのかなと思いました。
『遊ぼうよ~』
子供の声が後ろから聞こえてきました。
「遊ばなくていいの?」
Nさんがそう言うと、少し間があった後Tさんは
「……うん? うん、遊ぼ、遊ぼ」
と、なんだか若干噛みあわない返事をしました。
「いつにするの?」
続いてTさんはそんなことを訊いてきました。
「いつって何が?」
とNさんが返すと、
Tさんは
「仕事に疲れた私を遊びに誘ってくれるんでしょ?」
と、なおも噛みあわない会話を続けてきました。
「私じゃなくって、子供達と遊ばなくていいの?って意味だよ。さっきからずっと遊ぼうよ~って誘われてるよ」
「ちょっとやめてよ。今ひとりなんだけど」
「嘘でしょ、そっちこそやめ…」
Nさんは言葉を続けることが出来ませんでした。子供の声がはっきりと聞こえてきたからです。
『先生隠れてぇ。ワタシ達が……オニ』
プツッ。通話が切れました。
結局その日を境にTさんとは連絡が取れなくなりました。Nさんは後悔しました。「遊ぼ」と返事をさせてしまったからだと自責の念にかられ、なぜあんなことを言ってしまったのだろうと日記にしたためました。
そんなある日、いきなりTさんからメッセージが届きました。
【つかれた】
Nさんは急いで返事を打ち込みました。
[疲れたって、仕事休んでるの? 大丈夫?]
【つかれた。つかれた。つかれた。……憑かれた】
[え?]
【次は】
[うん、次は何?]
【次は、……お姉ちゃんが隠れてぇ。ボク達がオニ】
それっきりNさんも姿を消してしまいました。
後日Nさんの両親からY氏に失踪人探しの依頼がありました。
以上の話は、Nさんの日記や、スマホに残ったメッセージの履歴などから、探偵Y氏が自分なりに把握した事の流れです。
「こんなの依頼人になんて報告したらいいかわかんないよ」
Y氏は僕にそう語って話を締め括りました。
1 件