投稿者:タケシ猫
これは僕が若い頃に実際に体験した話です。
あるとき僕は、当時知り合いだったKさんという声優さんに誘われて、彼女が出演する小劇団の公演を都内の芝居小屋に観に行きました。詳しいストーリーは忘れましたが、演目は陰陽師モノでした。
物語の途中、舞台に設えられた大きな門が開いて異界と繋がるというシーンがありました。その門が開いたとき、僕は劇場の空気がスウッと冷たくなったように感じられました。空調か何かを操作してそんな風に演出しているんだろうと思い、なかなか心憎い演出をするものだと感心しました。
それから少し時間が経ったときのことでした。僕は突然何の前触れもなく物凄く奇妙な感覚に捉われました。それは『観客全員の後ろに、この世のものではない【何か】が覆いかぶさって、観客と一緒になって舞台を観ている』という感覚でした。驚いて周囲の客席を見渡しましたが、残念ながら実際にその【何か】を視ることは出来ませんでした。
そのときの僕の不思議体験は結局それだけでした。ですが、後にも先にも芝居を観に行ってそんな感覚に捉われたのはそのときだけです。なので、これは面白い体験をしたと思い、僕は是非Kさんに話さなくてはと思いました。
後日、Kさんに会ったとき、僕は彼女の顔を見るなりこう言いました。
「この間の舞台さあ」
すると彼女は僕の言葉を全部聞かず、まだ僕が「この間の舞台さあ」までしか言ってないのに、いきなり
「いや、幽霊出まくって大変だったよ!」
とかぶせてきたのです。
Kさんに聞いたところによると、
「音出しのタイミングで音が出なかったので音響さんに確認したら、『いきなり横から手だけ出てきたので、怖くて装置に触れなかった』と言われた」
とか、
「Kさんが死んでいる場面で、倒れている彼女の傍に誰か立っている。でもそのシーンでそこに立っているひとはいない」
とか、
「舞台に立っている人の数が明らかに多いのを、観客で視てしまった人もいる」
などなど、多くの霊現象があったとのことでした。Kさんが言うには演目が陰陽師モノなので念のために公演前にお祓いをしておいたが、公演中にもあらためてお祓いすることになったそうです。
僕が思うに、舞台に設置された大門が開いて異界と繋がるシーンで、空気が冷たくなったのは演出ではなく本当で、開かれた大門は実際に異界と繋がってしまったのではないかと、今でもそんな風に考えています。
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