2019年10月15日 更新

キャンペーン

夏の怪談コンテスト応募作品NO44_シロツメグサの浮遊

ぱどにゃんこ夏のキャンペーン 最恐「実話怪談コンテスト」応募作品を一挙ご紹介!

 

投稿者:キラ

シロツメグサの浮遊

「念より怖いものはないよ。」

祖母は言う。

「幽霊より怖いの?」

台所に立つ祖母を見上げて私は問う。

「幽霊、あれは人間と同じだよ。」

祖母は続ける。

「生きてる人間の念も、死んだ人間の念も同じ。願い事も、強く祈り過ぎると呪いになる。」

祖母曰く、念があるから人は死後もこの世に残ってしまうんだとか。



田舎町に、私は祖母と2人で暮らしている。家は山と田に囲まれており、脇の小道を下ると神社がある。拝殿の奥には池があり、水は澄んでいるものの、深層が深くて底が見えない。

ある時、隣の空き家に親子が引っ越して来た。その家の娘とは歳が近いこともありすぐに仲良くなった。名を小夏という。
裏庭の柿をぼったり、川でカニ釣りをしたり、野に寝転んで本を読んだり、小夏といると時間を忘れた。


野には一面にシロツメグサが咲いている。千夏は花で作った輪を冠に見立てて頭に乗せた。

「シロツメグサの花言葉はね、約束。」

小指を差し出す彼女はお姫様のようだった。


小夏と出会ってどのくらいの時が経っただろう。その日は小夏の母親が和菓子屋で買って来た水まんじゅうを食べた。縁側でよもぎ茶を飲み、畳に横になって涼んでいると祖母が来て

「これからみんなで神社に行くよ」

と言った。


祖母を先頭に小夏、小夏の母親と4人で、神社の拝殿をさらに奥へと進む。日も暮れかけだというのに蝉がまだ鳴いていた。池の傍に、鍵がかかった祠があった。祖母が鍵を開けると人型に切り取られた紙が置いてあり、そこには「ヒトガタ祓い 浄霊」という文字が書かれてあった。
それからは一瞬だった。小夏がその紙を一枚手に取り
そっと紙に息を吹きかけて池に落とすと蝉の音がピタリとやんだ。


「『あの世と繋がる池』昔から有名でねぇ、お盆になると遠くから浄霊に来る人で池の前に列ができる程よ。」

石段を降りる小夏と母親に老婆は続ける。

「あの子は自分の事をこの世の人間だと思い込んでいたねぇ。しばらく見なくなったと思ったら、小夏ちゃんの家に住みついたようだったから、この池に連れてこないといけないと思ったよ。池の中で成仏してくれるといいね。」



池の中は音のない世界。秋が来て、冬が過ぎ、春になった。境内の桜が風に舞う。

何かの夢を見ていた気がする。目を閉じるとシロツメグサの冠が浮かんでいた。それもまたいずれ夢となる。

 

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