2019年10月15日 更新

キャンペーン

夏の怪談コンテスト佳作受賞作品_人命救助

ぱどにゃんこ夏のキャンペーン 最恐「実話怪談コンテスト」応募作品を一挙ご紹介!

 

投稿者:たんぼマスター

人命救助

私の父は元漁師、零細ゆえに職を転じることになりましたが、暮らしの一部ではある水泳は得意だったと聞いています。なにしろ、かつて前浜で溺れた小学生を二名救助して表彰されたほどでも、さしたることと自慢することもなく…。

我が家の面前に広がる海岸は穏やかに見えながら離岸流などが荒く、波に引っ張られて翻弄される死亡事故が多発していました。地元の者なら承知していても、その小学生グループは迂闊に海水浴、偶然見かけた父が慌てて救助に飛び込んだらしいのです。

この海での救命がなかなかに難しいのだとか。たとえ少年でも溺れて暴れ、必死にしがみつかれようものなら、救助する側も命の危険。よって背後から、ときには殴ったり海中に沈めたりして抵抗力を奪うのも肝要なのだとか。こうして背中ごと抱え、あるいは平泳ぎの背に乗せ、それでも助けられたのはグループの中の二人だけだったとの悔恨も。

そんなこんなが心痛だったかは定かではありません。けれど、以来、海に入ると気が滅入ると言っていた父も先日、大往生。
万事滞りのない不祝儀のはずだったのですが、ところが、お願いした遺影がなかなか出来てきませんでした。


担当者は「実は、ちょっと」と言葉を濁すばかり。葬儀の日時が迫るので改めてキツく質せば、なんとも苦しげに「なぜかエラーが続きまして」と。

説明によると、遺影は実写真からの簡単な画像処理、なのに機械の故障なのか、何度繰り返しても不思議な陰影がでてしまうのだとか。それらは、まるで遺影の肩や首筋を掴んで絡みつくたくさんの手や腕のように見えてしまう不気味さ?

まさかとは思うけれど、それはもしやあの日あのとき、父が救助出来なかった少年らの怨念のようなもの?!
必死に助けを求め、しがみつこうとした断末魔がいまだに...?

父が海水浴を億劫がったワケがなんとなく分かるような気がするし、あの人命救助の表彰状を一緒に納棺させてもらうことで遺影はなんとか完成はしましたが。

 

1 件

関連する記事 こんな記事も人気です♪

この記事のキュレーター

ぱどにゃんこチェック ぱどにゃんこチェック