2019年10月15日 更新

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夏の怪談コンテスト応募作品NO41_千獄の手

ぱどにゃんこ夏のキャンペーン 最恐「実話怪談コンテスト」応募作品を一挙ご紹介!

 

投稿者:阿蛭糸

千獄の手

括りたい人間括る人間括られる人間。さまざまな人間がそこにある樹木において首を括りつけるにしても。

吊られる木の根に幾許かの養分を施したところでそこにあるのは死体であるというにも拘(かか)わらず。
羊山の樹木にはきっと魔力があるのだと私は小さな自分に両親から言い聞かされておりました。

坂の多いあの街へ向かうまでの行程でのことです。あの場所は一人で歩いては通行してはならないらしいです。

小学四年生の夏休みに私はその日両親と共に羊山という地域における住宅街から抜けた殺伐とした道を乗用車で遊園地へ行くために通行したものでした。

遊園地にて楽しく遊んだのちに枯れかけた樹木が手招きするかのような夕暮れ。


逢魔が時とも呼ばれるのしょうね。人の顔立ちの判別が付きにくくなるほど太陽が落ちて街灯のところどころ燈っていたアスファルトに舗装された道路は色褪せた灰色をして夕焼けの残り火を微かに照らしていました。
初めに察したのは私だけだったのかもしれません。


親子三人で訪れた遊園地からあれほど帰りたくないと駄々をこねていたにも関わらず。
一人で座っている後部座席の足許からひんやりとした風に混じった妙に生臭さが伴う変に甘ったるい匂いが車の冷房から流れ出(いで)でているわけではないことに気が付いてしまったのです。

閉め切った乗用車の硝子窓の向こう。後部座席から振り返ってみればそこには枯れ木のような形状の手形が幾つもいくつも付着していたのでした。
陽が落ちる寸前の時間帯のことでした。外側から何者かが触れたかのような白くてさまざまな大きさの手形を発見してしまったのです。


「パパ、ママ。」


後部座席から身を乗り出して呼びかけても二人は硬い表情のままで父が言いました。


「この山を抜けるまではあまり横を見るんじゃないよ。」


つられるようにして不意に乗っていた車の窓から暮れなずむ景色と同化しつつある樹々を見ました。
見えたのは、太陽が沈む西の方角だったことを覚えています。

顔色を蒼白に助手席で母が不意に眼を伏せました。

速度を上げて通りすぎた乗用車が走り去りがてら中に乗っていた家族が見たものは逆光になってはいるけれどもとうに腐敗しているのではないだろうかと思しき人間が生えている樹の枝で首を吊っているさなかの光景でした。

朝来た時にそんな光景があったとしたら気付けそうなものなのにそれは確かに腐敗した数体の人間の遺体だったような気がしてならなくて。

 

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