2019年10月15日 更新

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夏の怪談コンテスト応募作品NO15_桑の実ぼろり

ぱどにゃんこ夏のキャンペーン 最恐「実話怪談コンテスト」応募作品を一挙ご紹介!

 

投稿者:桑腹満子

桑の実ぼろり

昔、家にも学校にも居場所のなかった私は、近所の山の中へ家出をしていた。

山へ家出なんて危険に思われるかもしれないが、猟銃会の人々が休憩する小屋などがあり、生まれながら東北の山育ちな私には、そこまで恐ろしい場所ではなかったのだ。



その日も、私は殆ど「死んでしまおう」という気持ちで山小屋に飛び込んだ。


すると、そこには男性がいた。
身長百五十センチ弱私からすれば見上げるほどに背が高く、毛深いもみあげと顎髭がすっかりと繋がっていた。



叱られる、そんなことを思い、私は慌てて頭を下げた。
扉から出ていこうとした私の肩を引っ掴み、男性は私を床に転がした。自意識過剰ではあるが、あの時は本当に「犯される」と思った。


同級生からはブタとクマの合いの子などと馬鹿にされた私に、そんなことをする人間がいるはずもないだろうに。


幸い、否、当たり前というべきか。男性は私を犯しも殺しもせず、暫くの間私のことを「観察」した。




不意に、男性は自分の口から何かを吐いた。

ぼろりと顔に落ちてきたそれを、恐る恐る抓んでみれば、桑の実だ。男性はまたぼろりと桑の実を吐いた。



ぼろり、

ぼろり。




男性は桑の実を吐き続ける。具合が悪いのか、なんて心配するそぶりも出来ず、私は呆然と男性が桑の実を吐くさまを眺めていた。



そうして、男性の周りが桑の実のどす黒い赤色にまみれた頃、男性は桑の実の一つを抓んで、私の口の中に指を突っ込んできた。ツンとする匂いは胃酸なのか、唇をべちゃりと濡らすのは男性の唾液か。


抵抗も空しく、お腹に膝を置かれたまま口の中に指を入れられてしまえば、私はその桑の実を食べてしまった。人間はこんな経験をしても食べ物を美味しいと食べられるのだな、なんて、不思議な感動すら覚えた。



一口を食べてしまえば男性は私の口へ次々と桑の実を突っ込んでいき、私は口の中に落ちてくる桑の実を貪った。



甘くてすっぱくて柔らかい果実が、どんどん私に噛み砕かれていく。最後の一つを噛み潰して飲み込んだその時、男性は初めて言葉を口にした。




「全部食ったな。んだらまぁ、また冬にでも遊ぶべや」



その言葉を合図に、私は疲れ切って意識を失った。次に目覚めた時には、男性の姿はなかった。



大したオチもなく、この物語は終わる。男性が言った「また冬に」というのも、神様の思し召しか変質者の戯言かすら分からないまま、それでも「私」は桑の実を見つけては山の中に入るのだ。

 

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