2019年10月15日 更新

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夏の怪談コンテスト佳作受賞作品

ぱどにゃんこ夏のキャンペーン 最恐「実話怪談コンテスト」応募作品を一挙ご紹介!

 

投稿者:ガルシア・丸介

私は妻の寛子と久々に、地元のH市に帰った。

たまたま長めのお盆休みを会社からもらったので、先祖の墓参りを目的に帰郷した。


墓には母が眠っている。母は今年の一月に急逝した。
母が健在だった頃、私は母と二人で暮していた。

父は単身赴任で家にいなかったので、一人息子の私は母といつも二人だった。母は昔から私に対して過剰だった。それは過保護の域を超えていた。母は私が大人になっても、私を子供のように扱った。

母は私が言う事を聞かないと、ヒステリックな怒りを露わにした。私は耐えられなくなって家を出た。逃げるようにして、地元から遠く離れたS市に引っ越した。


母は一人になった。他方、私は寛子と二人である。母は寛子のことを知らない(交際している女性がいたなど話せるはずがなかった)。私たちは二人で地元を飛び出した。



それからまもなく母は死んだ。

心臓麻痺だった。

私は死に目にあえなかった。母の亡骸が横たわる病室で、父は私にこう言った。




「お前に会いたい会いたいと言って死んでいったよ」



正直私はもっと早く帰ることが出来た。私は母が恐かったのだ。しかしそういった感情も、葬儀を終え、火葬されるとすぐに霧消した。


恐さが無くなると、今度は波のように哀しさが私を襲った。


私は泣いた。


母に申し訳なくなったのだ。ひとり寂しい思いをして死んでいったのだから。私は母を思い出すたび手を合わせた。こうして墓の前で目を瞑り、手を合わせているあいだも、母の顔が浮かんできては、悔恨の念と、涙がこみあげてくる。



申し訳ない、申し訳ない。

そう念ずる私。




──どれだけ目を瞑っていただろう、あまりの静けさに、私はふと目をあけた。


隣をみると、私の母の墓ではなく、私の方を向いて俯く妻がいる。私の気持ちが伝播してしまったのか、長い髪を垂らした妻は、下を向いたまま顔を上げない。私は心配になって妻に声をかける。



「寛子……大丈夫?」


その瞬間顔を勢いよく上げる寛子。
兎のように真っ赤な目、眉間に皺を寄せ、口はひん曲がり、肩を震わせながら、




「イイヨメダナァッ!!」



と嗤う寛子。





その声は寛子のそれではなかった。



私はもう故郷には帰らないと心に誓った。

 

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