2019年10月15日 更新

キャンペーン

夏の怪談コンテスト応募作品NO26_緑のジャージ男

ぱどにゃんこ夏のキャンペーン 最恐「実話怪談コンテスト」応募作品を一挙ご紹介!

 

投稿者:のもと

緑のジャージ男

当時小学三年生だった私は、夏休みに学校のプールへ通っていた。その日もビニールバックを持って学校へ行き、昼過ぎに家に帰っていた。するとマンションの入り口付近に人影が立っているのに気付いた。
それは上下長袖で緑色のジャージを着て、インターフォンの前で猫背気味に佇んでいる細身の男性だった。インターフォンがある壁際を向いているため顔は見えなかった。

誰かを呼びたして待っているのだろうか。私はそう考えながらインターフォンの真向かいにあるポストからチラシや封筒を取り、ロビー奥のエレベーターへ向かった。

その扉を閉めようとした時。


急に緑ジャージの男はこっちに向かって妙な動きで勢いよく走り出した。インターフォンがある位置からエレベーターまではおそよ6mほど。
「閉」ボタンを何度も押しながら、完全に扉が閉まる前に追いつかれると焦った。いつもなら扉をあけて待っているが、どう見てもその男は様子がおかしい。
だが男は右へ急に方向転換し、階段を駆け上って行った。


あの人は友達から連絡がきて部屋に来いと言われたのかもしれないと考えて、未だどくどくする心臓を落ち着かせた。
エレベーターに乗っている10秒ほどの間にプールバックから鍵を取り出した。

私の家は901号室。9階に着いてすぐ前の部屋だ。その右隣に902、903と7部屋続く長い廊下がある。いつもの癖でエレベーターを降りてすぐ右隣のその廊下をちらと見た。



あの緑ジャージの男が廊下の端に立っていた。


驚くが早いか男はあのフォームで勢いよく走り出した。私は慌てて鍵を開けて家の中へ体を滑り込ませ、すぐに扉を閉めて鍵をかけた。
もし、もし、エレベーターを降りてから鍵を探していたら、あと少しでも鍵を開けるのにもたついていたら、扉を閉めるのが遅かったら、間に合わなかった。

あの男は一体誰?なぜ9階に先回りできた?もし追いつかれていたらどうなっていた?なぜこの真夏に長袖のジャージを着ているんだ?


その日の夜、私は帰って着た母親にこの出来事を話した。なぜ住んでいる階が分かったんだろう。ひょっとして、あの人はお化けなんじゃない?と私がおどけると、母はこう言った。

「その人はインターフォンのとこ向いてたんやな?」

「うん」

「じゃああんたがポストを開ける時だけ、こっちをずっと見てたんちゃう?しばらく一人で帰るのやめときや」



それからその男の姿を見ることはなかった。

 

1 件

関連する記事 こんな記事も人気です♪

この記事のキュレーター

ぱどにゃんこチェック ぱどにゃんこチェック