2019年10月15日 更新

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夏の怪談コンテスト応募作品NO33_足音

ぱどにゃんこ夏のキャンペーン 最恐「実話怪談コンテスト」応募作品を一挙ご紹介!

 

投稿者:黒猫

足音

「彼女と行きたいから一緒に下見に来て欲しい」

同行した日、私は想像を絶する恐怖体験をする。


その恐怖は、数年過ぎた今でも生々しい経験として脳裏に刻まれており、当時の私はその事を知る由もなく友人の依頼に快諾した。

その場所は、丘の上にあり地元民だけが知る穴場な夜景スポットだった。
周囲は広い砂地で覆われているため建物や街灯は無く、夜になると聴こえるのは松の葉音、照らすのは手元のライトのみだった。

目的地直前の長いトンネルに差し掛かった時、私はこれまで感じた事のない胸騒ぎに襲われ、会話の途中に思わず口をつぐんだ。異変を感じたのか友人は私に何かを問うたが、今となってはハンドルを握る手の嫌な汗の感覚しか思い出せない。
その先の点滅信号はその夜、歩行者も居ないのに長い赤信号となり私達を足止めした。今思うと、見えぬ何かが「行くな」と言っていたのかもしれない。

到着し車を降りるとヌメっとした生ぬるいような空気に思わず足を止めた。息も白くなるような時期である。無数の視線を感じハッと振り返ったが一寸先も見えない暗闇。ライトで周りを照らすが砂地に残るのは私と友人の足跡のみ。悪寒と鳥肌が止まらなかった。
草木が生い茂る中、友人と私は目的地へ向かおうとした。

すると突然強い風が吹き、巻き上げられた砂に一瞬目を閉じた。次の瞬間、落としたライトが車の影に消える子供の下半身を照らしていた。
考えるより先に叫んでいた。その声に振り返った友人を連れ、私はすぐにその場所を後にした。


それから数日間、私は寝室に続く階段をゆっくり歩いてくるような音と夢で助けを求める少年にうなされた。

数日後、車を洗っていた時のことである。後部座席のマットを見て目を疑った。そこには、小さな砂の足跡が残っていたのである。

すぐに友人に連絡し飲み屋で一連の話をした。すると友人も同じような夢にうなされたと言うのだ。
沈黙を破るようにテレビではニュースが流れ始めた。松林で首を吊って自殺した親子が見つかったという。亡骸が見つかったのはなんと、私達が行った場所から20メートルと離れていなかったのだ。
亡くなったのは私達が行った日の前日。


言葉を失った。

放送の朝、二人の亡骸は供養されたという。その夜から夢に少年が出ることも階段の足音も無くなった。夢半ばだった少年の思いが歩いていたのではと、今思う。
その場所の近くを通る度、私はいつも心の中で手を合わせる。どうか安らかにと。

 

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