2019年10月15日 更新

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夏の怪談コンテスト応募作品NO39_忌中の家

ぱどにゃんこ夏のキャンペーン 最恐「実話怪談コンテスト」応募作品を一挙ご紹介!

 

投稿者:まきのでら

忌中の家

これは家族で田舎に遊びに行った時の話だ。

そこは同じ県内とは思えないくらい美しい田畑が広がっており、抜けるような青空の下、爽やかな気分で散歩を楽しんでいた。年季の入った家屋がポツポツと建っている他は、自然以外には何もない。ある意味贅沢とも言える環境。
そんな中、僕の目に止まったのは庭に雑草が生い茂り、戸に板が打ち付けられた一軒の空き家だった。

一際目を引いたのが、表札に貼られた『忌中』という紙である。意味はよく知らなかったが、不幸が起きたのだろうということは分かった。
しかし、家自体は周りの民家と比べても取り分け古いというわけでもないのに、この家の周囲だけどんよりと空気が淀んでいるような嫌な感じがして、僕たちは少し距離を取りつつその家の前を通り過ぎた。少しすると、弟が愛用の一眼レフで忌中の家をパシャパシャ撮り始めた。
不作法かもしれないが、旅先のノリで深くは考えず、特に注意もしなかった。

「ナニカ写ってたりして」

と言う弟と笑い合って、この日は楽しい思い出と共に帰宅した。
翌日、写真のデータを整理していた弟が、露骨に険しい顔でPC画面を覗き込んでいた。


「どうした?」 と聞くと


「あのさ……」と口を開いた弟の声は少し震えていた。

「あの時、忌中て貼っている家、撮ったやろ」

「うん」

「アレ、撮ったらアカンかったみたいや……ホンマに『写って』しもた」

「え?」

思わず身を乗り出して画面を見た。そこには遠目から建物全体を写したあの空き家が写っている。その二階部分に、ソレはいた。


「人の……顔」

男女の区別はつかないが、呆然としているようにも見える人間の顔が、ハッキリと写っていた。
雑草が庭を覆い、戸に板が打ち付けられた、空き家の中にである。


「なあ兄ちゃん……コレ、消していい?」


泣きそうな顔で言う弟に、僕は何度も首を縦に振った。
これは残しておいてはいけない、と直感したのだ。その後、あの田舎に行く機会はなく、忌中の家がどうなったのかは知らない。

後々知ったのだが忌中とは『家族が亡くなって喪に服し、外との接触を断つ風習』のことだという。その日数は四十九日。しかし、あの家は紙が貼られてから四十九日以上は確実に経っているように見えた。
もしかすると今も、あの家の二階には、ナニカが粛々と喪に服し続けているのかもしれない。

 

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