2019年10月15日 更新

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夏の怪談コンテスト応募作品NO37_誰も見つけてくれない

ぱどにゃんこ夏のキャンペーン 最恐「実話怪談コンテスト」応募作品を一挙ご紹介!

 

投稿者:斉木京

誰も見つけてくれない

私の出身県のほぼ真ん中辺りに大きな湖がある。

夏は湖水浴やマリンスポーツを楽しむ人々で賑わい、冬は白鳥が集まって来る風光明媚な場所だ。
かく言う私自身も実家に帰省すると頻繁に訪れる。
その反面、付近には謂わゆる心霊スポットと噂される場所もいくつか点在している。

私も子供の頃からこの湖に纏わる妙な話はいくつも聞いていた。
何年か前、県内の大学のとあるサークルが夏休みにある浜でキャンプをした時の話。


昼間のうちは湖水浴やバーベキューを楽しんで過ごしたが、夜になると肝試しをやろうと言うことになった。
サークルの部長だったNさんは既に何度か来ていたので人の少ないポイントも心得ていた。

湖畔の森の中を男女一人ずつでペアになって回る事にする。
Nさんは仲の良かった後輩のF君を肝試しのコースの途中に潜ませて、ペアが来たら飛び出して驚かせるように指示した。

かくして肝試しは始まり、大いに盛り上がった。

戻って来たペア達は口々にF君の驚かせ方の巧みさを語り高揚していた。
運営したNさんもそれを聞いて満足したのだった。
最後のペアが戻って来て、肝試しは終了となったがF君が中々帰って来ない。


聞けば最後の二人はF君を見ていないという。

心配になったNさんは他のメンバーも引き連れてF君を迎えに行った。
F君が潜んでいる筈の場所に行くと、彼は茂みの奥でへたり込んでしくしくと泣いていた。


Nさんは驚いてF君に話しかけたが要領を得ない。
F君は湖の方を指差して、訳の分からない事を言っている。


「誰も見つけてくれない、誰も見つけてくれない」


しゃくり上げながらそう繰り返すばかりなのだ。
何か変だと感じて無理矢理彼を立たせようとするもぐずって動こうとしない。

堪え兼ねたNさんはF君の背中を平手でばちん、と張った。
するとF君は驚いたようにNさんの顔を見上げた。

いつもの彼の表情に戻っていた。


後でこの時の事をF君に尋ねても、記憶が曖昧でよく思い出せないのだという。
ただ、暗闇の中一人で茂みに潜んでいた時になぜか突然息苦しくなり、訳の分からない悲しさがこみ上げてきた事は覚えているらしい。

この美しい湖でも毎年水難事故が発生している。

遺体が中々浮かんでこないケースもあるらしく未発見で終わる場合もある。
F君が錯乱状態で口走った『誰も見つけてくれない』という言葉は、事故で亡くなった人の無念だったのではないか。
Nさん達はそんな気がしたと言う。

 

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